マルニ、シーズン遅れの在庫を
「ビンテージ」としてネット販売

marni vintage

イタリアの人気ブランド、マルニが、シーズン遅れの在庫を「ビンテージ」アイテムとして自社サイトで期間限定販売するという、面白い試みを行っています。

通常、ファッションはシーズンごとに移り変わるもの。
シーズンが始まる数ヶ月前に販売を開始し、シーズンが終わりに近づくとセールが行われ、在庫を一斉に処分。
処分し切れない分は翌年以降のセールやアウトレットに回し、サステナブルな心意気のあるブランドなら、それでも処分し切れない分は寄付。
そして、最終的に売れ残ったものは廃棄されるというのが、一般的なファッション製品の歩む道。

つまり、シーズンが終わってしまえば、ファッション製品は企業にとってただのお荷物でしかないのです。

ところがマルニは、2002年のアイテムなど微妙にビンテージとはいえない、いわば売れ残りの在庫品を、自社サイトで定価に近い値段で販売するという、業界の常識を覆す試みを行ったのです。

トレンドがなくなった?

この企画、マーケティング手法としては面白いのですが、よく考えるとなんだかヘンだと思いませんか。

8年前の服が今でも売れるということは、8年前の服は今でも廃れていないということ。
マルニが販売している「ビンテージ」アイテムは、特別今シーズン流行りのスタイルや柄というわけではないので、8年前のトレンドがリバイバルしたわけではありません。
要するに、この8年間、大してファッションに変化はなかったということです。

これは、ファッションの概念を根底から覆すかもしれない、ちょっとした事件といえるのかもしれません。

ファッションは、家電などと違って性能面でバージョンアップすることはあまりありませんから、本来なら、破れたり汚れたりして使えなくなった時点で買い替えるべきものです。
ところが、シーズンごとの「トレンド」という呪縛があるために、製品としてはまだまだ使えるものでも、時代遅れだからとか、同じものを何度も着るのは恥ずかしいから、といった心理的な理由で買い替え需要が起こります。

ファッション業界側は、売上を上げなくては商売になりませんから、シーズンごとにトレンドを打出して新たな商品を投入し、何とか消費者に買ってもらおうと、さまざまな努力をしています。

それが、このマルニの試みで、いまやトレンドなんてなくなったということが証言されたようなもの。
数年前に販売された服を今年着ても問題ないなら、敢えてシーズンごとに服を買い換えなくても良いということになってしまいます。

見直されるファッションの意味

実は、ファッション業界でトレンドがなくなったというのは、数年前から囁かれていること。
長いファッションの歴史の中で、トレンドとなり得る新しいアイディアは出し尽くされてしまったのです。
服というのは、人間の体に合わせて着用されるものですから、胴体と手足が入るという基本的な形状を変えることはできません。
丈を短くしたり長くしたり、襟を大きくしたり小さくしたり、穴を開けてみたりと色々な試みはなされていますが、スタイルでこれ以上の新しさを出すことは、どんなデザイナーにとっても難しいことなのです。

一方、環境という観点からすれば、トレンドという概念はとてもムダなもの。
消費を喚起するだけのツールでしかなく、限られた地球資源を使って大量に物を作り、大量のゴミを生み出す引き金でしかありません。

もちろん、新しい服や小物を買うのは楽しいことですから、悪いわけではないのですが、世界中の人が過度な消費をすれば、温暖化や気候変動が加速したり、資源がなくなってしまったり、結局自分達に被害が跳ね返ってくることになるのです。

すべての製品が、リサイクル素材やオーガニック素材を使ってサステナブルな製法で作られ、適度に消費されるようになれば、気候変動などを気にする必要はなくなるかもしれませんが、現在はほとんどの製品がサステナブルとはいえないうえ、先進国や新興国の消費活動は適度といえる状況ではありません。
だから、私たちは自分自身の生活を守るために、率先して消費を抑えなくてはならないのです。

トレンドがなくなったことも、環境問題が顕在化してきたことも、ファッションがこれまでとは違う新たな道に進んでいかなくてはならないことを暗示しているといえるのではないでしょうか。

そして、世界的に人気のハイエンドブランドがこのような試みを行ったことで、もうタブーはなくなったといってよいのかもしれません。

多くの企業がこれに倣い、シーズン遅れの製品を堂々と定価で販売すれば、シーズンごとに大量に新製品を作る必要も、買う必要もなくなり、ムダにゴミを生む出す必要もなくなります。
そして、サステナブルな素材と製法でファッション製品が作られるようになれば、安心してファッションを楽しめる新しい時代の幕開けとなるでしょう。

Marni
ウエブサイト: http://www.marni.com/

2010/11/08

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